SANDY55 BBS
宮古島方言 ユサラビ - さんでー
2022/04/04 (Mon) 21:08:03
方言 ユサラビ = 標準語 夕方、夕刻
日本語の「去る」を調べていて我々が現在認識する「場を去る」の他に時・時節を
表す語に続けて「来る」の意があることを知りました。
つまりバイバイの サラバ ではなく真逆の「来る(come)」になり
「夕が来る、夕になる」でこちらだと理解しやすい。
更に検索すると、アバ! アガジャ! アガンニャ 有るサイガ!
motocaさんのBLOG 2009年2月17日のエントリー。
https://motoca.ti-da.net/e2424233.html
その後更新がありませんので結論にたどり着いていないようですが核心に迫っているように思えます。
ゆうさらうべ => 「う」が欠落して 「ゆうさらべ」であれば話は簡単ではある。
しかし motocaさんの分析あるいは動詞活用をWEBなどで調べると
「夕+さり+べ」になりそうですが、そうすると /ri/ から /ra/ の母音交代で
行きずまりました。
気分転換でったのでネフスキーの方言ノートを見てみると、
なんと
"jusarabi 夕方、夕至、夕 の下に 「(RK) jwsarari (Jap) jw:sari"
とあるではありませんか!!
ゆふさり
https://kobun.weblio.jp/content/夕さり
[名詞]夕方になること、夕方
出典 伊勢物語 六十九
更にもう一つ
https://kotobank.jp/word/夕去-2090056
>「ゆふさる」という動詞形が使われていた、とある。
〘名〙 (「さり」は来る、近づくの意を表わす動詞「さる(去)」の
連用形の名詞化) 夕方になること。また、その時。夕方 夕刻 ゆうされ ゆさり
[新撰字鏡(898‐901頃)〕
[名詞+辺]は例えば 窓辺、川辺、夕べ などがある。
しかしこの場合 /jw:sari-be/ では /ri/ => /ra/ の変移をなかなか説明できない。
原型に戻って、 動詞「ゆ(ふ)さる」 + べ を改めて考察するとどうなるか?
無理やり変換
広辞苑無理用検索で「去る」の活用は以下の通り
未然形
さ・ら {ない、う} <= この「う」はmotocaさんの分析にでてくる
「ふ」と同一だと思う。
さ・ろ
連用形 さ・り {ます/た}
さ・っ
連体形 さ・る {とき}
国語文法に疎い私には上記いずれでも べ(~頃、あたり)が続いてよさそうに見える。
連用形として考えると「夕去り・ます、あるいは去り・た=来た + 頃」で「夕さりべ」
となりそうにも思える。
以下 個々に考察。 夕(ゆう)は全て「ゆ」に置き換える。
1)-1 未然形上段の ゆさらう + べ が成立するのであれば
/jusaraube/ -> /jusaraubi/ /jusara:bi/ a:が短母音化して /jusarabi/
あるいは単に /u/が抜けて /jusarabi/
ただし一般的には /au/ は 長母音/o:/ に変化するらしい。
そして宮古島方言には
短母音/o/ は無いが長母音の /0:/ はある。
例:「 おーおー ぬぅ てぃん..Ahhh.....」 捨てぃうかでぃな
1)-2 上記の元が ゆさら・ふ /hu/とすれば p音変化過程の前段である
/jusarufu/ をもとめることができ,更に原音を求めると
/jusarapu/ になる。これはほぼあり得ないので古語の「ふ」そのものが
二重母音を表記する際に出現した、書き言葉用の /h/ 音を追加したもの
ではないかと思う(セパレーターのようなもの)。
似たところでは おおきみ => おほきみ (ただし学説として
あるかどうか検証していない)
そうするとやはり大元は「ゆさらう」でよいということになる。
1)-3 未然形下段の ゆさろ + べ が成立するなら
/jusarobe/ -> 母音 /o/ がないので/a/に移っ て
/jusarabe/ -> /jusarabi/
ただし一般的には /o/ は /u/ に置き替わるのでこの変化は途中二つも飛び越える例外となる。
2) 連用形 ゆさり + べ
/jusari-be/ -> /jusari-bi/。 /ribi/では母音 /i/ が連続するので
母音交代が起こり近接母音の/a/に置き換わった。
舌先母音の[ï]に行かずに /a/ となった合理的理由は説明できませんけど...
例は...語彙不足故特定に至らず。
3) 連体形 ゆさる + べ(時)の 「ゆさるべ」とすると
る /ru/ => ら /ra/ だと途中の /ï/ を飛ばして /a/ に行く 変化の理由が
が思いつかない。
motocaさんの導き出した「ゆ(う)さらうべ」も過程は違いますが結果は 1)-1
と同じなので変換過程も同様と考える。
以上 行き詰ってしまったのでこの件はしばし中断。
閑話休題
ネフスキーは [RK] jusarari/ と本島方言を採録している。
/d/、/b/ と /r/ は 舌先の位置が近接しており置き換えが発生しやすい。
一般的には /r/ -> /d/ ・ /b/ の変化り、/d/・/b/ -> /r/ が
起こりやすい(らしい。)
宮古島の /bi/ と 本島の /ri/ に共通する原音を /be/ 以外に求めると...無い!
結局 /be/ に行きつく。 「べ」で確定すると沖縄本島は /bi/から更に /ri/ に
変化しており、宮古島方言は古形を残している、ということの傍証にはなる。
というわけで膠着状態を脱することができません。
なかなか難物でおじゃりまする。
Re: 宮古島方言 ユサラビ - さんでー
2022/04/17 (Sun) 22:50:08
ユサラビ
ユは「夜」か「夕」かについて。
当方、古語辞書を持ってませんのですべてネット頼りですが、
「コトバンク」では「夕さるは」こうなっています。 そのなかでリンクされる「夜去」を見ると曖昧。
とりあえず前者に従えば、『上代では動詞としての「夕(ゆふ)さる」はあるが「夜さる」は見られない』、とのことなので(見られないから ”なかった"、とは言えませんが)、古形であろうと思われる動詞「夕さる」の活用形、あるいは名詞としての「夕さリ」で考える方が可能性は高いのではないかと思った次第です。
「よさリ」「ゆさり」のどちらにしても「ゆさりび」までは辿りつくのであとは母音変換をどう解釈するかだけということになります。
母音の変化についてはしもじさんご指摘の「カシマシ ⇒ カサマス」はたしかに良い実例で「先行母音 /a/ に引きずられる」ということが言えそうですが、そうなっていない事例もあるのです。
標準語古形 方言
① 夕さらび jusaribi jusarabi
② 姦し kasimasi kasamasï
③ 干(晒)魚 sara(shi)-io ? sari-ïïu
長くなるので省きますが、この3例をうまく説明できないと、変化が語によってランダムに起こるとかあるいは単に③を例外とする、では今一つ納得できないので頭を悩ましているのです。
答えがわかっても実生活に何ら資するものではないので頭を酷使すると劣化が早まるかもしれないのでこのあたりで止めとこうと思ってます。
投稿しようと思って読み返して気が付いた。
カシマシの語尾の シ は /a/ にはならず /ï/ になってる。 当面 見なかったことにします。
話は変わって
正直に告白しますと「カサマス」は「いらいらする、うっとうしい、腹立たしい」であって標準語(及び古語)「カシマシ、カシカマシ =うるさい、やかましい」とはやや異なると思っておりました。
「うるさい」は方言でスト「ンギャマス、ヤガマス」があるので「カサマス」は「カシマシ」からするとそうとう意味の変化した言葉だろうと思っていたわけです。
それで今回改めて方言辞書を調べてみると、
1. ネフスキーノート; kasamassa があるけど内容はアルファベットのみで意味不明。ちなみにこれは判読しづらいが伊良部での採録ではないかと思われる。
2. 下地一秋氏 ; (kasamasï:kasamasï) 喧し喧し(やかましやかまし)、かしがましの略、
3. 与那覇ユヌス氏; 煩わしい、「姦(かしま)しいこと
とあり、「うるさい」であったことがわかりました。
(ちなみに数人のピサラの友人に聞いてみたところ、ほぼ「腹が立つ、うっとうしい」を挙げ、ニャーツ近辺の一人が「うるさいもあったかもしれない」と言ってました。
これはたぶん方言廃止・標準語推進教育花盛りなかで カサマス が標準語形容詞風に「カサマシイ」になり イラつく系の意味合いが当時の子供達=現・老人のチャンプルー方言において主流になったためかな~と思ったりします。) 沖縄でウルサイはどうかなと思いナーファンチュの魔女に聞いたら「カシマサぬ !」と言われました。
そこで motocaさんち をノックしてみましたら、ニャリーン!、2006年にありましたよ、「カサマス」。ついでにコメント欄には カサマス > ヤガマス >ンギャマス のイライラ度数解説まであったりして。 イライラ度 大いに納得
Re: 宮古島方言 ユサラビ - さんでー
2022/04/18 (Mon) 01:28:04
本件についてしもじ氏よりコメントあり。まとめると以下の通り
氏は ユサラビ の語源は ゆふさる + 辺 ではなく 夜去り + 辺 を採る。
管理人注;よさリは 名詞 ゆふさりから派生した「名詞」であるが、活用形式からの名詞はそれのみで語幹を形成するとする。
/ri/ → /ra/ の変化の考え方
母音の変化は 進行同化(先行する母音に引きずられる)として考える。
尚、同化は語幹内で行われる。
その後のBBSでの説明をまとめると語幹の概念は動詞
形容詞に適用され、名詞あるいは既に名詞化したものは一つの語幹とする、という事になろうかと思われる。
以上を適用すると以下の通りとなる。
1. よさりべ yosari-be → yusari-bi → yusara-bi
yosar +a とはしない。
2, かしまし kashimas+i → kasamas+i → kasamasu
最後の シ が スに変わるのはミャークフツの活用形式と考えられる。
例: かなし;カナス、恐ろし;ウトゥルス、お恐し;ウカース等など
3. 煮干し
当初 晒し魚 で考えたが 天日で干す意味で さ・る 【晒る・曝る】があり、こちらが適当と思われる。
晒るの連用形として sari とし sar + iに分解する。
進行同化は語幹のみでおこるものとすれば sari となり先行する a に引きずられることはない。
* 夕さり(ゆふさり)は語感、字ともに一番ふさわしように思えるが ふ(あるいは長音)部分を ふ 抜きにする理屈が思いつかない。
ただし、秋田弁では短縮された名詞 ゆさり がある。これを適用すれば語幹内での進行同化で yusara は生じる音にはなる。
合ってるかどうかは...何とも言えん 私の恣意的な解釈が含まれているような気がしないでもない。